根本俊臣先生(平成18年3月退職)

わが半生

根本 俊臣

 

 定年を向い心静かに日々を憶う境地には到達していない、多忙な日程に追われ、一日一日が過ぎて退職の間際になってもとてもその心境になれなかった。

 

 先輩諸兄の言われたことが、今さらながら思いを深くした。特にこの一年間は、苦悩と苦痛の中で無我夢中のままに年度末がきてしまった。今、ようやく退職の実感が湧いてきた心境である。

 
 四十三年間にわたった教職生活を終ってほっとしているというのが、正直な気持であるが、同時に様々な想い出が頭の中で駆け巡っているのも事実でもある。

 
 私が中大杉並に採用になったのは、昭和三十八年三月一日、中央大学杉並高校という校名が継承され、新しく誕生する高等学校の開校準備教員であり、中央大学在学中にかかわらず新設学校準備教員として、日々奮闘せざるえない状況でもあった。

 
 初代、鈴木俊校長の下、僅か七名の専任教員で六学級編成の開校。中大付属校が新築移転後に残された老朽化著しい木造三階建校舎、プール横から観泉寺まで区民が校庭を横切る公道が校地を二分しているなど、今では想像を絶する条件の中での出発。七人の教員・七人の侍の戦いが始まりました。過去の事例が全くなく、新しいことの取り組であり、付属二校の取り組を視て参考になるものを採り入れていくことは、教育を間違いなく進めていく上で有効な手段であるが、付属校、横並び意識からの脱却も求められ、女子校構想から男女別学、共学校へと変改されてきました。

 
 私は、教職人生の中で、専門教科の以外に実に多くの仕事を経験することができました。全国高体連陸上事務局長の仕事五年間。市教育委員会を四年間従事した。それらの仕事の中には、教員になるときは予想もしなかったような事務的内容の業務も含まれるとともに、自分の企画を実施することができたことは、教育というものを考え直す機会となりました。これらの仕事は、不幸にしておきた不慮事故の対処にも十分に生かされることができました。

 
 勤続四十三年は長いようだが瞬時のようにも感じられます。昭和三十二年、中大杉並高校入学、中央大学と中央大学杉並高校、わが人生の五十年中央大学とともにありました。

 

 

根本先生 お世話になりました

保健体育科 児玉美絵子

 根本先生は、中大杉並の創立当時から、本校の保健体育と行事に関する礎を創ってこられました。初期の頃は入学試験に体育の実技があったとお聞きしましたので、根本先生はじめ中杉という学校が、どれだけ体育を重視していたかが伺えます。まさに「質実剛健」の体育学校で、今の中杉生の柔らかいイメージからは考えられないたくましい高校生が多かったようです。そんな彼らを、根本先生は体育科の中心になって、徹底的に鍛えてきました。

 

私が中杉に入職したのは十四期生と同時でした。根本先生といえば、とてもダンディで、スーツ姿もジャージ姿も、またスキーや登山でのウェアーもそれはおしゃれでした。ご一緒させていただいた数々の実習では本当に楽しい思い出がいっぱいです。スキーでは、引率教員皆でトレインをしたり、ナイターで繰り返し「滑り」の研究をしました。登山では、高山植物の花の名を必死で覚えたり、山頂でコッフェルでコーヒーを入れたり…そんな先生の、自然を愛し楽しみその良さを生徒達に伝えたいという思いから、中杉には、林間学校・スキー教室・スケート教室・水泳教室・マラソン大会など、とても多くの野外活動の行事がありました。私はそのような行事を通して学校の中での体育というものを学ばせていただきました。

 
 また先生には、私事でもたいへんお世話になりました。私が中杉に専任として勤めさせていただいた時に、体育科の主任をされていた先生に「今年、講師で同じ大学の人が来るよ」と言われ、その名前を聞いてビックリしたのです。なんと私が大学時代憧れていた児玉君(つまり私の夫です)だったのです。根本先生が私たちを採用してくださらなかったら、今のわが児玉家はありませんでした。そんなわけで、公私ともども、家族ともども何から何までお世話になった恩師です。

 
 都会育ちの私がいろいろな中杉の行事を通して、山や自然が大好きになり、そのすばらしさを人生の中に取り入れることができるようになりました。先生に最初に連れて行っていただいた福島県の安達太良山が見える場所に、山の家を建て、長期休みに訪れ季節の移り変わりを楽しんでおります。自分の退職後には田舎で畑仕事などまで考えています。そんなきっかけを作ってくださった根本先生に本当に感謝しています。

 
 長い間、中杉のためにご尽力いただきありがとうございました。先生をはじめ諸先輩方の作ってこられた中杉のよき伝統を、大切に次に伝えていくことが私たちの務めと考え、日々努力してまいりたいと存じます。

 
 これからもお元気でご活躍くださいますようお祈り申し上げます。