山本季夫先生(平成17年3月退職)

四十年を振り返って

山本季夫
2005.4

 

今年の3月31日をもって、40年間勤務した中央大学杉並高校を定年退職した。

 
 それから約3ヶ月経った現在、ようやく勤めのない生活に慣れ、朝起きてのんびりと新聞を読み、ゆっくりと朝食を楽しめる境遇となった。

 
 ところが、最近ときどき学校の夢を見る。決まって窮地に立たされている夢だ。例えば、自分の試験が次の時間に始まるというのに、問題が出来ていなくてあせっているとか、次の時間に数学の教師でもない私が数学を教えることになっていて、生徒が教科書を出して私の授業を待ち構えている、といった光景である。「そんなバカな!」と憤然として叫んでいるうちに目がさめてほっとするのである。

 
 私はよく“のんびり屋”だと評される。また細かい事にこだわらず、いらいらすることもなく鷹揚に見えるとも言われる。ところが私には大変神経質な面がある。例えば、試験問題は必ず数日前には準備しておくとか、成績は提出の締切日より何日か前には出しておくとかである。もし万一不測の事態でも起きた場合を考えると、おちおちしていられないからだ。だから、試験時期が近づくと、いつも何かに追われているような気持ちで過ごしてきたのだ。授業に関してはどうかというと、これも自信がない。前日のクラスでやったのと同じ内容の授業でも、次にやる時はまた下調べをしておかないと不安でしょうがないのだ。こんな気持ちが今頃夢となって現れるのだろうか。

 
 このようなことを書くと、いかにも自信のない暗い人生を送ってきたかのように思われるかも知れないが、これは私のほんの一面であって、実際はもっと楽しく明るい教員生活だったと言える。

 
 よく卒業生から、中杉は自由な学校だったという声を聞く。必ずしもそれほど自由だったわけではないと思うが、おそらく精神的に自由だと感じさせる雰囲気がこの学校にはあったのだろう。実は、教師にとっても中杉は自由を感じさせる学校だった。日頃の教育活動に対して、上の方からあれこれ制限されることも少なく、いいと思われることは何でも自由にやることができた。

 

また有難い事には、教員の研究にはおしまず応援をしてくれることだ。私も若い頃は毎年夏休みに、必ずどこかの研究会に参加したものだ。とりわけ1975年のアメリカ研修と94年のイギリス研修は、私の英語教師としての人生にとって大きな転機となった。英語を志す者にとって、一度は英語文化圏で英語を使って生活したいという夢がかなえられたのだ。夏休みをはさんで3ヶ月間アメリカで研修したことで、やっと英語教師として一人前になった気がした。さらにその後のイギリスでの研修において英語・英語文化の奥深さを体験した。これらの機会を与えてくれた中央大学と杉並高校に対し感謝の気持ちでいっぱいだ。

 
 最後に、無事に定年を迎えられたのは、良き先輩と同僚にめぐまれたこと、そして様々な分野で活躍している同窓生と在校生諸君のおかげである。心からお礼を申し述べたい。

 

 

山本先生の思い出

菅井恵子
2005.4

 

 山本先生と言えば、一番に颯爽とした白いショートパンツ姿でテニスをされている姿が今でも目に浮かびます。私が生徒として中杉に入った頃は、放課後といえば(空いている時間はいつでも?)先生方はクラブに邪魔にならない程度に(?)頻繁にコートに出てテニスの真剣勝負を楽しんでいらっしゃるのが当たり前の光景でした。そんな中で山本先生は、いつも女生徒の熱い応援の声を集めていらっしゃる“ダンディー”な先生でした。

 
 私が山本先生に直接ご指導いただいたのは、なんと言ってもイギリス、オックスフォードの海外研修の引率をした時のことです。先生にとっても私にとってもオックスフォードは、それぞれに1年という長い月日を過ごした思い入れのある場所です。赤い2段バスの走るカーファックスの交差点や、不思議の国のアリスやハリーポッターがひょっこり顔を出しそうなクライストチャーチの広い庭園やダイニングホール。キャップ・アンド・ガウンに身を包んだ学生たちが流れ出てくる卒業の日のシェルドニアンシアターと書店ブラックウェルの本のにおい。どれも中杉の生徒たちに体験して欲しい、山本先生と私のオックスフォードの思い出でした。

 

先生は、2年遅れて引率に出た私に、どうやって生徒たちに自立心を持たせて有意義な研修を送らせるか、現地の雰囲気と英語に物怖じする生徒の背中をどう押してやれるか、本当に丁寧にアドバイスしてくださいました。イギリスを愛してやまない先生だからこそ、私たち後輩に中杉の「オックスフォード研修」を大事に育てていくようにと伝えてくださっていたのだと思います。

 

また、ご自身も保育園の送り迎えにご苦労された先生が、育児休暇から復帰して悪戦苦闘している私にくださった数え切れない程の有意義な実践アドバイスと、暖かい応援の言葉は今でも忘れません。どうぞこれからは奥様とお二人でゆっくりと海外を回られてください。本当にありがとうございました。